翼手目は食果性の大翼手亜目〔オオコウモリ類、約170種〕と、食虫性の小翼手目〔小型コウモリ780種〕に大別され、オオコオモリ類は東南アジア、日本〔沖縄南西諸島、小笠原諸島〕、アフリカ、オーストラリアの熱帯、亜熱帯地域に限産します。小翼手類は南北両半球で木が生息しない寒い地域と大洋島を除き、世界に広く分布します。
日本には38種類のコウモリが生息し、ねずみ類の種類数を凌いで、日本産陸哺乳類の中で最も多く、もっとも身近なイエコウモリは住家棲であるが、特異な顔をしたキクガシラコウモリとユビナガコウモリなどは洞穴棲、ヤマコウモリとモリアブラコウモリなどは樹洞棲です。
コウモリはフランス後では「はげハツカネズミ」、ドイツ語では「飛びハツカねずみ」、中国語では「飛鼠」あるいは「蝙蝠」とネズミに因んだ名でよばれていることが多く、その理由はとしてコウモリは古くは「ネズミが翼を生やして飛んでいるもの」と誤解されていたためです。
実はネズミとは無関係で、モグラの仲間〔食虫目〕の前肢〔手〕が翼に変化し、 空を自由に飛べるようになったものです。
コウモリの生態と習性
- 生息場所
- イエコウモリは北海道を除き日本全土に分布し、活動期には、おもに家屋の羽目板と壁土の間の空間や屋根裏の隅や戸袋の中を休息場所にしています。
生息の証拠として最も確実なのは、夕方コウモリが家屋から出巣するのを直接に見届けることです。巣の出入り口になっているところでは、羽目板が歪んでめくれていることが多く、出口付近はややくすんだ色になり、また直下にはハツカネズミのものに似た糞〔径1.5~2mm、長さ8~10mm、いろは黒褐色、旧いのは淡褐色〕を認め得ます。
しかし、出入口は羽目板の隙間に限らず、軒下の小さな穴の場合もあり、冬眠時には壁土や瓦の下にある土魂の割れ目に潜んで眠ります。
最近は機密性が高くなり、家屋内で生活をし、冬眠しない例も多くなってきています。 - 繁殖
- 本種は一夫多妻性で10月中・下旬に交尾をしますが、11月になると翌春3月まで続く長い冬眠〔低体温・低代謝率〕の状態に入り、覚醒後の4月20頃に排卵と受精が起こります。
この間精子は子宮内や子宮卵管移行部内に蓄えられており、成熟卵胞もまた長期にわたり維持されています。
母獣は約70日の妊娠期間を経て7月初めに1~3頭〔稀に4頭、平均2.3頭〕の仔を産み、このうち、約1ヶ月後の巣立ちまで約半数が死亡し、1人前に育つのは平均1.1頭に過ぎません。雄雌とも非常に早く成熟に達し、生後4ヶ月後の秋には繁殖活動を始めます。 - 採餌活動
- イエコウモリなどヒナコウモリ科のものは、口から周波数変調(FM)型の2~3msecという短い超音波のパルスを発射し飛翔昆虫〔ガ・カなど〕からの反響を聞き分け、その位置をすばやく探知して、これを捕食します。
出巣開始時刻は光周期に依存する夜間飛翔昆虫が多くなる日没後10~30分の薄暮で、特に5~9月には日没後の平均12分に集中し、20分後にはすべてのコウモリが採餌活動のため出巣し、採餌は2~3時間継続される。
曇天時は晴天時よりも早まり、日没前になることもあり、出巣後に雨が降り始めると急いで帰巣し、雨天時は出巣しません。
採餌活動は巣から東方に4~5km以内で、帰巣実験では16.3㎞が記録されています。コウモリが餌としている虫は、夏は蛾や小型甲虫、春秋には、蚊などであり、採餌量は1日当たり約2.3gで、体重の約30%に当たります。 - 冬眠と寿命
- コウモリは冬眠期〔11~3月〕に体温や代謝率を著しく低下させるだけでなく、覚醒期〔4~10月〕であっても休息時には活動期に比べて代謝率をかなり低下させます。
小哺乳類は、体容積に対する体表面積の割合が大きく、従って代謝経済的にコストの高い動物であるが、コウモリ類は異温性によって代謝コストを生涯にわたって引き下げられます。これがコウモリの寿命が長い〔30年以上の記録もある〕生理的理由です。
イエコウモリにおいては生態的寿命は5~6年で、コウモリ類では短いほうであるが、同じくらいの体重である食虫類やネズミ類の生理的寿命よりも長く生きます。 - コウモリによる被害例
- 中・南米に生息する血吸いコウモリ類は家畜やペット、稀に人間を襲って吸血し、かつ狂犬病ウイルスを媒介することがあるとされています。
日本でも一時コウモリが蚊に刺され、蚊を捕食することから日本脳炎媒介動物の疑いをかけられましたが、研究の結果、日本脳炎ではなく類似のウイルスであったようです。
イエコウモリが巣くってる家屋はコウモリの体臭や糞尿がたまり、しみついて、不快な臭いを発していることもあります。
棲みつかれた倉庫や工場では、落下した糞尿のために、下に置かれた食料や衣料が商品価値を損ね、また鉄製品が腐食するなど、衛生管理上また経済上の問題を引き起こすこともあります。
またイエコウモリにはコウモリマルヒメダニが寄生し、これは人体にも寄生することがあるので注意を要します。